生活について

何のサプライズ?

仕事の後、隣の市まで。指定された時間までだいぶあったので、駅から歩いて先方の事務所に向かった。結局40分以上かかって、なんとか事務所に到着。歩いている途中は「今日はどうやって来られました?」「駅から歩いてきました~」「えっ、結構距離ありますよ」「40分かかりましたけど、わたし歩くの好きなんで全然大丈夫です~」「帰りは駅まで車で送りますね」「イヤ~そんなん申し訳ないですわ~」「いえいえい気にせんとってください」「はあ、ほなら遠慮なく、お世話になります」という打ち合わせ冒頭のアイスブレークトークを妄想しながら歩いた。台風が近づいているせいか、風が吹いていて涼しかった。それでも汗だくになりながら、なんとか約束の時間10分前に到着。

先方の事務所は真っ暗だった。え、なんかのサプライズ?ここから突然電気がバー!と点いてウワー!ってなるサプライズ?と言えるくらい全フロア真っ暗。インターホンを押すと電気が点いた!ほらほらやっぱりサプライズ~!と思ったらセコムの防犯カメラの照明だった。こういうときの映像はたいてい録画されているので、インターホンの前でニコニコして待った。同時に先方に電話をする。どちらも反応なし。

一応指定の時間から10分くらい待ったけど、変わらず漆黒の闇だったので、書類を郵便受けにぶちこんで帰った。

最近ゆっくりと少しずつ「富士日記」(武田百合子)を読んでいて、わりと武田さんがいろんなことに怒っていらして、ああ、いやなことがあったときは怒ってもいいんだなと思うようになった。なので、そこから怒り狂いながら歩いて帰った。時間も交通費も無駄になったのが悲しいし、何より楽しい打ち合わせを妄想しながら夜の風に抗って歩いていた自分がみじめだった。

歩いているうちにバスがフッとやってきたので、行き先も確認せず乗車。30分くらいして京阪の駅に着いた。その駅で立ち食いそばを食べて、さらに新大阪では浪花そばで「新大阪そば(チャーシューのせ)」を食べた。やさしいスープの甘みが、すべての怒りを霧散させてくれた。笑顔で帰宅。

「富士日記」まだ途中だけど、響くフレーズがかなり多い。百合子~!泰淳~!花~!(敬称略)と思いながら読んでいる。

テラスをペンキで塗った日の泰淳さんの日記。「ペンキとは要するに、ハッキリと「自然」に対する抵抗である。雨で腐る木材を守るばかりでなく、雑多な色彩の中で、単色を主張する、そのことがすでに抵抗であるらしい。(省略)と言うのは、植物の色、土の色、すべては雑食であって、ペンキほどの原色はありえっこないからである。(省略)『イロを塗ることによって外界に変化を与える』。これは実にスリルのある行為だ。」

ある日の百合子さんの日記。「以前、石垣工事で、うちに大工の人たちが入ったとき、女衆たちは、朝くると仕事に取りかかる前に、腕から時計を外して、ていねいに松の枝にぶら下げた。女ものの華奢な金時計が、キラキラといくつも松の枝に下がっているのを私は羽衣伝説のように眺めた。」(以上、「富士日記」(武田百合子)より抜粋)

こういう、気持ちのいい文章を自分も書いてみたいもんだなと思う。
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